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第8回:木の葉を叩き落す先生

-木の葉を叩き落す先生-

 M大学の寮に入っている娘から電話がかかった。毎度のことなので、「はいはい、」と電話に出ながら、「元気にしているの」と訊くと「うん、まあね」と言う言葉の声がいつもと違って私の耳に重く、暗く聞こえました。私はもう一度訊いてみました。「今日は日曜日でしょう。何をしているの。」

 「うん、別に。」と言いながらも、その声と、少ない言葉になにか、私は、ぴんと感じました。娘は東京の大学の寮にいるのです。

 「善子、いまからお母さん東京へ行くから寮に居なさいよ。」

 私はとるものもとりあえず、電話を切るとすぐ東京は向かいました。寮へ着いて娘の顔を見たとき、飛んで来てよかったと思いました。あの溌剌とした面影はなく、気力もなくなっていました。外へ出ようかといって誘い出しました。
 「寮生活はどうなの、上手くいっているの。」

 寮生活が半年ぐらいたったころでした。娘は独り子で自由に生活していましたので一室4人の寮生活に今気持の上で疲れていることは理解できますが、そんなことなら我慢させようと思いました。しかし娘の話を聞いたとき、私は納得して寮を出すことを考えました。

 娘は話し出しました。 「お母さん、ここの寮の先生は恐ろしい先生だと思うよ。この間先生は庭を掃いていたの、綺麗になったところへまた木の葉が落ちてきたの、そうしたら先生は竹ざおを持ってきて、ばんばんと枝をたたき出したのだよ。葉がハラハラと落ちるとまたたたくの。それを見ていたら恐ろしくなったの。」

 何気なくしている先生のこの仕種が娘には大きい問題だったのです。

 「お母さん、木の葉1枚1枚にも命があるのでしょう。樹に引っ付いている間はまだ生きているでしょう。それを棒で叩き落すなど樹の葉が可哀相だと思う。もしも家のお祖母さんだったらどうするの、まだ生きているのに、もうすぐ死ぬからといって、先に殺してしまうのも同じでしょう。ずいぶん、無神経だと思うよ、こういう怖い先生のもとで寮生活をするのはいやだ。」

 私は娘の話を聞きながら、改めて教育の影響について考えさせられました。子どもを育てる時、一番大切なことは、命を大事にすることだと私は教えてきました。例えば草花でも他のものでも同じだとも教えました。だから、花を踏んだりちぎったりすると、「お花さんが痛い、痛い」と言って泣いているよと2歳ぐらいのときから子どもに教えました。娘は幼い日に家の狭い庭を歩く時「お花さん、ちょっと,ごめんなさいね」「失礼します」などと言っていたのを思い出しました。

 命の大切さを考える時、人の命も樹の葉の命も娘の観念は同じだったのです。考え方には個人差もあるでしょうし価値観の違いもあると思います。しかし、命に対する娘の真剣な思いには、すべての命を尊重にするという私の教育が生き生きと育っていることに感動しました。私は娘の考え方に賛成し、その日のうちに家探しをして寮を出させることにしたのです。

 子どもの教育にも教える順序が大切です。私は何よりも命の大切さを教えるべきだと思います。小さい時、子どもは色々と悪戯もしますが命に関わることのときは強く叱ります。その教育が終わるまでつまりマスターするまでは他のことは大目に見ています。あれも、これもと一度に教えると全てが無駄になりやすいからです。

 今の時代、余りにも人の命が粗末に扱われることが恐ろしく、嘆かわしいことです。



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